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2009/06/13

So Far So Good

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サカナを取り込む瞬間、僕はおそらくそのことしか考えていない。
腰を落とし、ロッドを引いて、寄ってくるサカナをただの一心にネットで掬う。
36歳の男がそれなりに抱える世間体も、仕事のしがらみも、日々の暮らしのつまらないイザコザとかそんなもの全て、僕の頭にはないのだ。
釣行のスケジュール調整、今日のために巻いた毛鉤、行先、区間、流れのポイント、キャスティング、ドリフト、アワセ…、数えきれないプロセスを経た最後の瞬間に集中して、僕はネットを水面に突き出してイワナを迎える。無事ネットに入ったそのイワナが思った通りの良型であることを確認すると、僕は満面の笑顔で天を仰いだ。
そんな風にしていくつかのイワナを寄せる度に、日々の暮らしで少しずつ疲弊した何かを僕は取り戻し、回復していく。瑣末なことは清冽な流れに洗われ、渓の空彼方に散り散りになっていくのだ。

僕の暮らす東京から遠く離れたその渓には、素晴らしいイワナ達が多く棲んでいた。友人のわんさんがよく知り、ずっと前からいつか行ってみようと誘ってくれていた渓。
ようやくそこに来ることができた。
僕たちは一日かけて、毛鉤の振りやすい開豁な渓や小渓流を歩き、エゾハルゼミの声を聴きながら、たくさんのイワナを釣った。#11のスタンダードなピーコックパラシュートに、いつもよりひと回り大きいサイズのイワナが飛び出す。彼に言わせると、それでもこの渓の良い時に比べれば大したことないとのことだったのだけど。でもまぁ、僕には十分だ、全くもって(笑)

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放流なし、ネイティブなイワナ

名手の友人は先週もこの渓で尺イワナをキャッチし、この日も、またしても僕の目の前で尺イワナ見事引きずり出した。僕も結構釣ったけれど、数でも友人の比にならない。
サカナの見つけ方、ストーキング、キャスト、ドリフト、友人の後ろ姿はどれをとっても僕の良いお手本だ。彼の釣りは、釣るための洗練された釣りというか、無駄がなく手を抜かない。そしてそれを思い切り楽しんでる。本人はまだまだだと言うけれどね。
友人の根気強い(笑)アドバイスもあり、僕の毛鉤のドリフトも少しはマシにはなったと思うけれど、特に神経質なネイティブなサカナには、少なくとも80点以上のドリフトを1投目から行えるようにならないと良いサカナには巡り合えないのだ、多くの場合。

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友人の綺麗なループ。一眼レフならではのショット。1/750

そんな友人が、対岸の大岩の窪みに時折現れる良い型のイワナを見つけ、僕に譲ってくれた。けれど、その小さな窪みにピンポイントで毛鉤を送り届けるには、水面すれすれのサイドループ、しかも強い流芯を跨いだミドルレンジのキャストが必要になる。たとえスポットに毛鉤が入ったとしても、ナチュラルに毛鉤を置いておける時間はほんの数秒、しかもクルージングするイワナのタイミングとあわせる必要があるから、僕には相当やっかいなポイントと言えた。だからと言って見送る手はないのだけど(笑)
僕はしっかりとポイントを見据え、ジィーッとラインを引出し、購入したばかりのリバイタライザーを長めのティペットに刷り込んだ。

さて、やりますか。

思った通り、キャストは困難を極めた。まず水が太く、足元がおぼつかない。窪みの上の岩盤に毛鉤がぶつかったり、手前の速い流れにラインが引っ張られることもしばしば。なかなか、ポイントに毛鉤がうまく入らないのだ。近くに落ちたドラグかかりまくりの毛鉤に、一瞬イワナを追わせてしまったり…。
やれやれ。
5分以上、リトライを繰り返しただろうか。
何度もミスキャストを繰り返した後の、1投。
運よく、毛鉤が窪みのポイントにポトリと落ち、ティペットのほつれがとれる数秒間、その場にとどまった。
その瞬間、三角の頭がヌッと水面を割った。

反射的に、右腕を跳ね上げる。すぐにズシリと重い感触が僕の掌に伝わった。
流れに乗ったイワナは、水しぶきを上げながら、僕のウィンストンをグングン絞る。
僕は重い流れに足を取られないように、ロッドを掲げながら、少し下流に下った。
コイツはとらないと。
僕は、慎重に、だけど素早くラインを手繰り、サカナを寄せる。
最後にバシャバシャと水面でひと暴れしたのをいなした後、下流から水面を滑ってきたソイツを一気にネットで掬った。(TOPの写真 撮影のわんさんに感謝!)。
よしっ!

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28センチのイワナ。クリック拡大

尺には届かなかったけれど、春から本格的に取り組んだロングリーダー・ティペットのお陰で、手にした1尾は格別だ。いろいろとスキル向上の助言をしてくれた友人の前で、しかも友人が譲ってくれたサカナを釣り上げることができたのも、僕にはとても嬉しかったんだ。これだからフライフィッシングは止められない。

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盛期の渓で、数もサイズも出たこの日の釣り。案内してくれた友人には、本当に感謝だ。東京に来てからのフライフィッシングライフが、こうやってこれまで順調に楽しめているのは、彼に負うところが大きい。
帰りのサービスエリアで遅い晩御飯を取った後、僕たちはオープンテラスのカフェでコーヒーを飲んだ。脱渓地点を見誤り、さんざん急斜面を藪漕ぎして、日が暮れる直前に林道に這い出たことや、友人のランディングシーンを僕が動画で撮影したことなんかをネタに、僕たちは渋滞が解消する時間を潰した。釣り以外のこんな時間も、僕にとってはとても大切だ。閑散としてきたサービスエリアの夜風が妙に心地よかった。

僕の場合、たまにしかいい釣りができないけれど、そんな僕にだってこんないい日が訪れることもある。
家族へのお土産を買った僕は、東京へと続く本線へ繋がる合流車線へ車を進める。
この先にはいつもの日常が待っている。
僕は力強くアクセルを踏み込み、夜の高速へ車を滑り込ませた。

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コメント

洋さんご無沙汰してます!

いや~、良い岩魚釣ってますねぇ、
施行錯誤の末手にした一本、最高
ですよね♪晩酌、美味かったでしょう

こういう釣りが出来ると翌週の出社が
苦にならないんですがね(笑)

投稿: カバ | 2009/06/13 15:48

こんにちわ、洋さん。
いい釣りしましたね~。
充実感が文章からも伝わってきますよ。
あと2cmは次回のお楽しみですね。

投稿: narukawa119 | 2009/06/13 18:03

洋さん、乙カレー(笑)

いやあ、良い岩魚だね♪
ネイティブでライズしていて、サイトで、流心の向こう側にできた
還流帯にいる良型釣る…なかなか出来ない事だよね!
サイズ云々よりこれぞドライフライの釣りだし、これぞFlyfishingだと思うんだ!
当日はちょっとうるさい迷ガイドだったけど
楽しんでくれて良かった♪
今度は尺っちゃおうぜい!(笑)

投稿: わん | 2009/06/13 21:12

洋さん、こんばんわ!!
>下流から水面を滑ってきたソイツを一気にネットで掬った。
>よしっ!
のよしっ!って相当大きな声だったでしょ?(笑)
このときの情景がしっかりと伝わって来る臨場感溢れる文章からも
充実した休日だったコトが良く判りますよ!!イイですね!!
わんさんの撮影したランディングシーンもイイ!!
もちろんシャッタースピードを気にして撮影されたループの写真もカッコイイ!!
帰り道のコーヒーブレイクもちょっと大人っぽくてイイですね!!
ラーメンばっかり食べてる誰かさんとは違うッ(爆)
ちなみに、寄ってくるサカナをただの一心にネットで掬うのは
37歳のラーメン好きな誰かさんも同じです(笑)

投稿: terry | 2009/06/13 21:57

洋さん、こんばんは~!!

お忙しい日々を送りながらも、しっかりと釣りを楽しまれてますね^^。
当日の充実した釣りの様子や楽しさが文章からヒシヒシと
伝わってきますよ。お見事!!
釣果ももちろん大切かもしれませんが、同行した方と
楽しい時間を共有する、これが出来た日には最高の一日と
なりますものね。そんな楽しみ方がいつもできたらいいなと
ボクも思ってます。

投稿: ita-gon | 2009/06/13 22:24

洋さんこんにちは~
いい感じですね~。 文章もまた見事。
「反射的に、右腕を跳ね上げる。すぐにズシリと重い感触が僕の掌に伝わった。」
確かに私の手にもズシリと感触がきましたよ。

結構太い流れですね。 コケたら流されて大変なことになりそう・・・
お疲れ様でした~~(^^)/

投稿: まちゃ | 2009/06/14 10:28

カバさん、こんにちは!
久々にいい一本が出ました♪
濁りがあって水面も荒れてたので
ミスキャストしてもスプークされずに助かりましたです^^

で、出社は苦にならなかったのですが、
急斜面の藪こぎで翌日身体がパンパンでした(笑)

投稿: 洋 | 2009/06/14 11:36

narukawaさん、こんにちは!
サイトで結構テクニカルな場所だったんで
嬉しかったなぁ。
あと2センチは次行く時の口実にしようかと(笑)

投稿: 洋 | 2009/06/14 11:40

わんさん、こんにちは!いやぁ、いい一日だった。
あのイワナはポイントを知り尽くしているわんさんといかなきゃ
掛けれないイワナだったね。ほんと感謝です^^

流芯を跨いでの、レンジのあるポイントでのサイト。
ブラインドでの尺より、フライフィッシングの醍醐味を
味わえたなぁと思ってるんだ。
これまでの取組が間違ってないことを証明する1尾だっしね。
また、行こうぜ!

投稿: 洋 | 2009/06/14 11:47

terryさん、こんにちは!
さすが、terryさん、すべてお見通しだなぁ(笑)
ほんとは「よしっ」じゃなくて「よっしゃぁー」
だったかも^^

わんさんの写真は本当感謝ですね。
いつもよく釣る友人なので、カメラ撮影にも
心のゆとりが感じられますね。
僕なんて釣れないときは、友人の撮影なんか
そっちのけだから(笑)

最近は、サービスエリアにもスタバとかタリーズとか
があるので、ついついマッタリしちゃいますね。
お互いの写真を確認しながらのコーヒーブレイクも盛り上がります♪
terryさんに習って今度はラーメンにしちゃおうかな(笑)

投稿: 洋 | 2009/06/14 11:54

ita-gonさん、こんにちは!

>釣果ももちろん大切かもしれませんが、同行した方
>と楽しい時間を共有する、これが出来た日には最高
>の一日となりますものね。

まったく同感です。
釣果より楽しい時間を過ごすことの方が、より大切ですもんね。
だから、僕は友人がたまにバラした時は、無理して
大笑いするようにしてます。
けっして心からではありません(笑)

ita-gonさんとも、いつかの一色川みたいに、また
楽しい釣りがしたいですね♪

投稿: 洋 | 2009/06/14 12:06

まちゃさん、こんにちは!
ズシリときても、その直後にフワッとなることも
多くて困ってます(笑)

水、結構太いでしょう?
ポジション決めるのも、結構大変でした。
でもここいう流れが良いイワナを育むんでしょうね♪

投稿: 洋 | 2009/06/14 12:14

精悍な顔の、いいイワナですね~!
難しいポイントで、魚を散らすことなく、きちんと最後には喰わせられるなんて素晴らしいです!

自分なら、散らすのが6割、対岸を釣っちゃうのが4割といったところでしょうか(汗)。

きっと記憶に残る1尾になったでしょうね。

投稿: ぷくぷくりん | 2009/06/14 23:45

ぷくぷくりんさん、こんばんは!
ありがとうございます。
むしろ、対岸でポイントまで遠かったのが
良かったのかもしれません。
まぁ、何より活性が高かったのに救われたと
いうことかと^^

この一尾のお陰でしばらく釣りに行けなくても
食いつなげます(笑)

投稿: 洋 | 2009/06/16 23:17

洋さん、こんばんわ。

コメント書き込み、出遅れちゃいました(汗)

それにしてもダイナミックな流れですね!
こんな太い流れを挟んだポイントからの岩魚との
ファイトは興奮しますよね。
しかもしれが春から課題として取り組んだ事が功を奏したわけですから、今シーズンの内でも特に思い出に残る一匹だったのではないでしょうか。

洋さんの嬉しそうな顔が目に浮かびますよ!
また良い釣りのお話を聞かせてくださいね~~♪


投稿: たんくろーりー | 2009/06/19 22:53

たんくろーりーさん、コメントありがとうございます!
いえいえ、こっちもほとんど週末しかコメントできないので^^ゞ

こんな流れで下られたので、ちょっとヒヤヒヤものでしたが、
6.5Xで何とか取り込めました。
おつしゃる通り、春からのプロセスも含めて、間違いなく
今シーズンの思い出に残る1尾になったと思います♪

>また良い釣りのお話を聞かせてくださいね~~♪
僕の場合、良い釣りがたまにしかできないのが問題なので、
ご期待に添えるかどうか心配だなぁ(笑)

投稿: 洋 | 2009/06/20 22:57

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