« OH MY LITTLE GIRL | トップページ | 曇りのち晴れ、そして雨 »

2008/05/11

僕らが旅に出る理由

2008050400

その日の昼過ぎ、わんさんと僕は、雄大な南アルプスの頂きを横目で眺めつつ、山あいの道に車を走らせていた。初夏の山の装いは、眩しいばかりの新緑の萌黄色にポツポツと咲く山桜のピンク。その絶妙なコントラストがとても綺麗で、僕は思わず目を細めた。
標高1000Mを超えるこの辺りでは、丁度今が見ごろなのかもしれないな。
そう思うと午前中のパッとしない釣りは差し置いて、僕はちょっと得をした気持ちになった。

朝に入った渓では水況も良くハッチもあったから、実のところ少しは期待していたのだけど、結果は散々だった。途中出逢った地元の人らしきFFMの話では「GWでスレているから、朝から#24のミッジで釣り上がって、やっとひとつ…」とのこと。
#12~#16を延々投げ続けた僕に一度もチャンスがなかったのは当然ってとこなのだろう。それにしても、風薫る皐月に#24ってのはなぁ。
そう、GWの関東近郊の渓は、どこも相当厳しいのだ。

2008050401_3
渓相は抜群だし、魚はいるのにね…。

そこで、僕らは話し合って、別の支流の更に上流を目指すことにした。
釣れない時、上流や支流を目指しがちなのは、ひょっとすると釣り人に共通の認識のような気がする。上流に行ったからって釣れる保証はどこにもないのに、考えてみれば不思議なもんだ。

とにもかくにも場所を替えた僕らは、ちょうどお腹もすいてきたので、渓の畔の草むらに座り込んでランチを頂くことにする。
メニューはお決まりのカップ麺に握り飯、そしてインスタント珈琲。
いつも思うのだけど、どうしてこういう場所でのランチってのはこんなにも美味いのだろう。正直、東京のその辺のレストランで出でくるメニューより美味く感じるのは、ただ腹が減っているからだけじゃないような気がするな。

2008042602

食後の珈琲を啜った後、僕は草むらに寝転んで空を見上げた。
青い空、白い雲が眩しく、心地よい風が頬を撫でていく。
そして僕はちょっと間目を閉じてみる。
ふと、ここから少し離れた都会のオフイスで、僕を取りまいている様々な出来事が脳裏をよぎった。
2008042603_2朝7時半には会社につき、延々と深夜まで続くハードワーク。うんざりするほど長い会議。まるで全てを会社に捧げたかのようなワークアホリックの人々…。
僕が悪戦苦闘しているそんな現実の世界が、何だかとても遠くに感じられた。少なくとも今は。

ガタガタガタガタ…

ふと目開けると、農家のおばちゃんが、僕らの座り込む傍の道を、耕運機でゆっくり通り過ぎていった。歩くより遅いスピードで。ここではまるで、時が止まっているようだ。

僕はわんさんと、人だらけで渋い渓の文句を言い、釣れない理由をさんざん並びたてて笑いあいながら、山郷の風景の中に次第に馴染んでいった。
都会の暮らしで溜まった織りのようなものが、ゆっくり溶けていく…、まるでそんな感じだ。

午後の渓流では、午前中サッパリだった僕にわんさんが先行させてくれた。
仲間の思いやりに感謝しつつ、CDCダン、CDCカディスといろいろ試したけれど、当然の如くというか先行者あり・腕無しで、なかなか反応は得られない。
だけど、青空から降り注ぐ陽射しとひんやりとした高地の優しい風を身に受けて、僕の気分は悪くなかった。
そもそも、僕はピーカンでの釣りが結構好きなのだ。晴れていると水面への反応が悪くなるというけれど、やっぱり青空の下での釣りはそれだけで気持ちいいからね。

そして、しばらく行ったところ、護岸際のカタでやっとこさ水面が割れた。

2008050402
7寸弱だけど、今季初のイワナだ。

結局、毛鉤はアダムスパラシュートの16番。あれこれ毛鉤を変えた挙句に基本に戻った感じだな。よく見ると皮一枚でフック。危ないところだったよ(笑)

続いて5寸程度のアマゴを水勢のある流心でキャッチ。

2008050403
小振りだけどなかなか綺麗な魚体だね。

最後、夕方に出逢ったFFMが、2人で一日釣って一尾も釣れなかったって言ってたから、共に数尾を手にすることができたわんさんと僕は、幸運だったということかもしれない。サイズはともかくとしてね。

2008050405
午後の渓で毛鉤を選択中のわんさん

わんさんは、渋い釣れないと言いながら、午前中の渓流でも手堅くイワナをキャッチしていたのは流石だったな。わんさんの丁寧な釣りにはいつも感心させられるよ。

2008050406

1尾でも釣ると、僕の心は更にリラックスして余裕が出てくる。
午後に入ったの渓沿いの道で見つけたちょっとした祠に寄り道してお参り。
いわゆる道祖神ってヤツだ。里川なんかではよく見かけるけれど、こんな神さまを祭った昔の人や旅人も釣りをしたのかなぁ、などと思うと何だか神妙で不思議な気持ちになる。
たとえ日帰りでも釣りの旅に出ると、普段の暮らしでは気づかない心の故郷というか、日本古来の文化や慣習に触れることができるのが、僕は結構好きだ。温泉や蕎麦はいうまでもないけどね。

そういえば、前回の釣行では、峪から道へ上がる時に、ここ踏み外したら奈落の底、って瞬間があったり、入渓点まで戻る道が思いのほか遠回りで、里の道をわんさんと延々歩いたりしたっけ。
だけど、僕には一見無駄に思えるそんな釣り以外の時間も楽しいし、とても大切な時間のような気がしている。

2008050404もちろん、フライフィッシングそのものますます奥が深くなってきている。
実は、最近、リーダーを長くして、パイロットに使う毛鉤もADWを使わずCDCを試している。
要はスレた関東の渓流魚対策なのだけれど、わんさんから学ぶことも多い。
CDCの毛鉤だと、落ちたところが見えないと目で追えないからキャストにも注意を払う。
新しい取り組みにトラブルは多いけれど、少し上を目指して少し背伸びするのが、面白くもあるのだ。



結局、夕暮れまで渓で過ごした僕らの釣果は、大したものではなかった。
「今日の川、渋かったなぁ」
「そうだね。今度はもっと釣れる渓に癒されに行こう」
「そこに今日行くべきだったね」
そんなくだらないやり取りに笑いあいながらも、実は今日だって十分に癒されていることに僕は気づいていた。

人と自然が融合した日本の原風景のような里山で過ごす一日。
渓畔林のある清らかな流れで、僕の精一杯のテクニックで投じた毛鉤に出た渓流魚。
川の畔でのランチは美味かったし、ちょっとばかり危なっかしい少年の日のような冒険は僕をわくわくさせた。
僕はサカナを持って帰らないから、傍から見れば具体的な成果物など何一つない一日なのかもしれない。
だけど考えてみれば、その全てが、極度に都市化された僕の日常の裏返しなのだ。

東京というリアルな日常へ続く渋滞でごった返す夜の中央道に紛れていく僕達の車。
助手席で睡魔に襲われながら、こんなにも忙しく騒々しい日々の中で、僕らが家族や仕事を離れ渓に赴く理由を僕はぼんやりと考えていた。

『僕らが旅に出る理由』

それはとても素敵で大切なものだ。
今もって家族には、上手く伝えられないのだけど。

20080504
撮影はわんさん。車の運転も、大感謝!

|

« OH MY LITTLE GIRL | トップページ | 曇りのち晴れ、そして雨 »

コメント

洋さん、こんにちは♪
日常から趣味の世界に一時退避することによって明日からの
英気を養い、また多忙なる毎日に戻っていく…。
「旅にでる理由」は心身ともに必要な「明日へのパワーチャージ」
ということなんでしょうか。趣味の世界はかくあるべき…王道では
ありますね。

釣り道具を積み込んだ車のドアを閉め、アクセルを踏んだとき
から始まる「非日常」を、わんさんと共に楽しんでおられる様子が
伝わってきます。例によって「突っ込みトーク」が炸裂して
笑いっぱなしの車中なんだろうなぁ(笑)。

投稿: godzilla2004 | 2008/05/11 10:54

godzillaさん、こんにちは!
こっちに来て更に仕事が忙しくなってしまいましたからね。
その分、仕事でも家庭でもないシンプルな自分の時間
重要性が増してきてるのかもしれません。
仕事だけでも家庭だけでもない自分にも軸足を
置いておくことが、返って家庭にも仕事にも
良い影響を与えているのだと、自分に言い訳を
して旅に出掛けてます(笑)

車内はですね~、行きはうるさかったんですが、
帰りは僕が鉛のような睡魔に襲われまして(笑)
そんな中、わんさんが渋滞回避のロングドライブを
して頂きまして大感謝でした^^

投稿: | 2008/05/11 15:40

洋さん、こんばんは~!!

ウェーダーを履いて、ベストを羽織る。それだけで非日常の
スタートですね。釣りの装備を身に着けただけで、ボクの
旅は始まります。釣りに行けないときには家でもベストを
羽織ってみたりして、カミさんに白い眼で見られることも・・。
ボクの方はこれから徐々にヒマになってくるので非日常化が
日常化してくる季節です^^。世捨て人にならない程度に
今年もがんばりますよ~。洋さんもお仕事お忙しいみたい
ですが、機会があればまた一緒に楽しみましょう!!

投稿: ita-gon | 2008/05/11 23:15

洋さん、まいどです。
相変わらずブログ内容のセンスが素晴らしいですね。僕も見習わないといけませんね~!

1ツ目の岩魚。ほんとに良かったです!やや痩せている岩魚って感じだったけど、それもまた厳しい自然を表しているようでGOODですよね。
ほんとにこの日は洋さんが内容の濃い、一番いい釣りをしていたと思いますよ!

投稿: わん | 2008/05/11 23:27

ita-gonさん、こんばんは!
家でベストはちょっとヤバイですね。
さすがita-gonさんです(笑)

それにしても非日常が日常化してくるなんて、
羨ましいばかりだなぁ。
岐阜や北陸に行きたい今日この頃です^^

投稿: | 2008/05/14 23:23

わんさん、当日はお疲れ様でした!
1本目の渓では、あまりの無反応さにどうしようか
と思いましたが、転進が奏功しましたね。
まぁ、とは言ってもちょっとだけですが(笑)

2本目の渓ですが、ネットで確認するともっと上流も
良さそうでした。
また行きますか(笑)

投稿: | 2008/05/14 23:32

洋さん、こんばんわ!!
>最近、リーダーを長くして、
>パイロットに使う毛鉤も
>ADWを使わずCDCを試している。
ちょっとだけ釣りを難しくして、それを楽しみながら克服していくって姿勢は流石ですね!!ボクも今シーズンは“いつもより遠くから”を意識して釣りをしてます。場合によっては、ポイントまでなるべく近づいたりもしますが、距離を置くと、随分とキャストやライン操作が難しくなります。でもそれがまた面白いんです。
基本的にM体質なんでしょうけどね、こんなコトを楽しんでるってコトは(笑)

投稿: terry | 2008/05/19 20:02

terryさん、こんばんは!
いやぁ、単に今までと同じやり方では、簡単に
釣れなくなったからそうしてるだけなんです(笑)

中央道沿い、山梨あたりの渓流のサカナは
大したサイズでないヤツも、どいつもこいつも
一筋縄ではいかず、いつも頭を抱えてます^^ヾ
でも、確かにそこでチヨット背伸びをするのが
楽しいんですよね。

でも、5月にこんなだったら、渇水の夏とかどうなるのか、
たぶん背伸び位ではどうにもなんないと思われます…(笑)

投稿: | 2008/05/20 22:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/32734/41014703

この記事へのトラックバック一覧です: 僕らが旅に出る理由:

« OH MY LITTLE GIRL | トップページ | 曇りのち晴れ、そして雨 »