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2006/06/23

6月の桃源郷

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森の中を縫うように走る清冽で美しい流れ。
久方ぶりの平日釣行となったこの日、僕は昨年から通っている木曽川水系のお気に入りの渓に立っていた。

まだ入ったことのない下流部。アルプスを源流とする涼とした流れが、僕に夏至の日の暑さをすぐに忘れさせてくれた。こんこんと流れる水、風に揺れる木々、忙しく動き回る綺麗な小鳥達。あの鳥の名前がわかったら素敵だろうな。
森は静かで、そして生き物の気配に満ち溢れていた。
さっきまで、国道をでっかいダンプに挟まれて走ってたのがウソのようだ。
そう思いながら流れに毛鉤を放り込んではゆっくりと渓を歩いた。
僕にとって広すぎも狭すぎもしない、まさにベストレンジの穏やかな流れを暫く行くと、眼前に広がったのはいかにも水深のありそうな深緑色の淵。
ライズはないけれど、いかにもサカナのいそうなポイントだ。
僕は少し身をかがめて毛鉤を落とすポイントを一考し、毛鉤にフロータントを施した。
フロータント処理をする時の一種の高揚感が僕はたまらなく好きだ。これでよし。
左岸から淵のど真ん中あたりにCDCダンをポトリと落とすと、
暫く毛鉤が流れたところで、ピシャッと水面が弾けた。
とっさに右腕を跳ね上げる。
ククっと竿が曲がり、水面をバシャバシャと銀鱗が躍った。
ほどなく僕のネットに横たわったのは美しいタナビラ(アマゴ)だった。

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8寸のタナビラ。なかなかの凛々しい表情。
*全ての画像はクリックすると拡大します

この渓の上流部はイワナのみが生息しているのだけど、下流部にはタナビラも混 じる。この渓で一度はタナビラに逢いたいな、そう思っていた僕の口元は自然と緩んだ。今日はとても幸先がいい。いい一日になりそうだ。
平日の今日は釣り人も少なく、曇空も僕の味方をしてくれたのか、その後もいくつかのポイントからタナビラが飛20060621kisotanabira02_1び出してくる。
それにしても何で木曽では、アマゴのことをタナビラというのだろう。竿を振りながらふとそんな事に思いを巡らす。僕が思うに、それはきっと木曽川を中心としたこの地方の人々の暮らしと渓や渓魚が密接に関わっていたからだろうと。開発などという言葉が程遠かった時代、方言として確立されるほどこの地方の人々の身近な存在であったタナビラ。時代は変われど、彼らの住居がいつまでも安住であることを願いながら、僕はリリースに思いを込めた。

数尾のタナビラと遊んだ後、ジャムパンとオニギリを頬張って遅めのランチとすると急に眠くなってきた。少しうたた寝するだけのつもりだったのに、どうもこのベストシーズンの昼寝ってやつは始末が悪い。高原の風に吹かれながらシートにもたれ目を閉じると、あっという間に深い眠りに落ちてしまった。
特に昼飯までにいい釣りができた日はいつものことだが、ついつい起きるのが億劫になり、はっと気づくともう結構な時間になってしまうのだ。
「また、やっちゃったなぁ」などとブツフヅ言いながらも、心地よい眠りに身体の疲れはすっかりとれ気分は悪くない。僕は夕まづめへの期待を高め、仕掛けを作り直した。
午後は、イワナ狙いで上流に歩を進める。この渓の上流部は山岳渓流の様相を呈し、巨石が累々とした渓相。それでも、こんなイワナがコンスタントに出てくれるので、自然と足取りは軽くなる。

20060621kisoiwana01
7寸程度。ヤマトとニッコウの交配種ですね

カゲロウをはじめとする水生昆虫の羽化も安定していて、サカナの出はその後も続いた。しっかりとその役目を終えたCDCの毛鉤が、フライパッチにみるみる溜まっていく。ネットを使わずリリースするのが凄く気分が良かった。時折思い出したように降る霧雨が渓全体を幕のように覆い、更にサカナの活性を高めているようだ。
とにかくすこぶる条件が良く『盛期』と呼ぶのに相応しい渓の有り様だった。
大岩をよじ登り、淵を渡ってどんどん釣り上がると、前方に見覚えのある淵が広がった。先日イブニングで良い思いをしたプールだ。ただ、良型を掛け損ねて悔しい思いもしていたから、密かにもう一度来ようと思っていたのだ。

淵に差し掛かったのと同時に、川虫達の羽化もピークを迎えつつあった。
この淵の流れ出しの水勢が羽化に適しているのか、時間帯がベストなのか、とにかくその辺じゅう、虫達が乱舞している。
あまりの数に面食らった僕はそのときの様子を動画におさめてみた。(動画はコチラWMPでご覧になれます。)ちょっと分り辛いけれど白っぽく飛び交ってるのが全部カゲロウ。ためしに帽子を振りかざすと一気に3匹もとれた。普段は捕まえるのも大変なのに。

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名前は分らないけれどかなり大きい。フックサイズなら#10くらい。

で、淵から少し距離をとり、岩の上に立って水面を俯瞰してみる。
と…、バシャッ…バシャッ…!
ライズだ!
それも数箇所、しかもかなり頻繁にライズリンクが広がっている。20060621kiso02
この羽化のピークを迎えている赤っぽいカゲロウの名前はわからないけれど、サカナがコイツを捕食しているのは明白だった。高鳴る胸を押さえつつ、#12のそれっぽいCDCダンをフライボックスから摘んで結ぶ。良型が出たときに備えてティペットも新品に交換した。
もう充分数は釣っていたので、目の前のライズの中で一番派手でデカそうなのに狙いを定める。間違いなく左岸側の流芯にいるヤツだ。
僕は右岸手前(丁度右写真の場所辺り)にポジションを取って、間合いをはかり、小さな岩の後ろにしゃがみ込んだ。足元に流れ込む小さな流れは冷たいが、心臓は熱く鼓動を打っている。背後の頭上に覆いかぶさるように樹木が張り出しているのでコイツもクリアする必要がある。
僕はゴクリと唾を飲み込んで、狙うライズに向けて小さくロッドを振った。
一投目、ループがターンオーバーして、いい感じで毛鉤が流れた。
バシャッ!
激しく一発で出たが、コイツは掛け損ねてしまった。少しドラグがかかったのか、捕食が下手だったのか。いずれにせよ、ヤツが毛鉤に触れた感触が無かったのが救いだ。
間をおいて、二投目。先ほどより更にスリークォーター気味に振って、より意識して逆U時にティペットを着水させる。同じポイントに流れていく毛鉤。瀬音のざわめきの中、ただ毛鉤に全神経を集中させる。もう一度出てくれ…。

バシャッ!

きたっ、金色の魚体が白い水しぶきとともに激しく反転する。
一瞬の間の後、僕はロッドを跳ね上げた。
グググッ、その刹那ライトスタッフが弓なりに絞られ、サカナの躍動が僕の掌に伝わってきた。よし、のった!
ライズの主は、のたうちながら激しく抵抗する。釣られまいと淵の底に潜り込もうとするサカナの意思がはっきり伝わってくるような、そんな引きだ。
こいつは押さえないと。僕は慎重に少しずつ寄せた。こんな時、無理は禁物だ。あともう少し、と近くまで寄せたところで、グィーンとサカナが上流へ走った。彼も必死だ。
僕は焦らずもう一度ゆっくり寄せ直す。
最後はヤツも観念したのか、水面をツツーと滑ってきたところを一気にネットで掬った。
よしっ!
僕のネットに横たわったのは、やはりいいサイズのイワナだった。

20060621kisoiwana02誰もいない渓流で久しぶりに大きな声とガッツポーズが出る。
精悍な面構えに逞しくゴロッとした胴回り。ヤマトイワナの血を引く素晴らしい体躯はため息が出るほど美しかった。今日一番の型でサイズは9寸。尺には届かなかったけれど、ライズ狙いのしてやったりの1尾は嬉しくて仕方がない。
僕は喜びをかみ締めながら、カメラのシャッターを数枚切った後、イワナを流れに横たえた。イワナは暫く僕の掌の上で口を開いて荒い息を吐いていたけれど、その内にゆっくりと尾鰭を振って黒い淵に紛れていった。いいイワナだった。

その後も、同じプールでライズは頻繁に続いた。掛けたり掛け損ねたり、最後は手持ちのCDCパターンがなくなりテレストリアルパターンを浮かべたがそれにもイワナ達は襲い掛かった。僕はそれから渓が闇に包まれるまでの小一時間ただ夢中で竿を振り続けた。僕はもうこの渓の虜だった。

この日のこの渓は、僕にとって間違いなく桃源郷だった。
美しい森に流れる川とタナビラ、そして木曽イワナ。こんないい日は年に何度もないだろう。僕は今日の渓のことをしっかり胸に刻んで、相変わらずダンプが行きかう19号線の車の波に、愛車を滑り込ませた。

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コメント

洋さん、こんばんは!
いい釣りされましたね。少しだけのつもりが寝坊しちゃう
なんて最高の贅沢ですよ。おそらくマダラ系のメイフライ
だと思いますが、あのサイズが飛びまくっているイブニング
なんて本当に桃源郷です。
ただお互いに、出そうで出ない尺上を早く何とかしないと
あきませんね(笑)。というわけで尺上狙いでどこかご一緒
しましょう!イロイロ候補地はありますので、ご安心?
ください(笑)。←ホントか?

投稿: godzilla2004 | 2006/06/23 21:30

godzillaさん、毎度です!
あの渓にはこれまで何度か通ってますが
これまでで一番の高活性でした♪
あんなハッチが行くたびに起きたらいいのになぁ。
それにしても、あのメイフライ、マダラ系なんですね。
有り難うございます。
僕もそろそろメイフライの名前、
ちゃんと覚えないといけませんネ。

でもおっしゃる通りなかなか尺の壁が
越えられません。
という訳で近々、尺上狙い一本で(大きく出ました(笑))
是非ご一緒しましょう。
DM、返信しましたのでヨロシクです^^

投稿: | 2006/06/23 23:23

こんばんわ!。この沢は明日、2人で行く予定だった所でしょうか?。このペースなら尺は釣れますよ。私の分まで頑張ってくださいね。

投稿: ライズ | 2006/06/23 23:56

ライズさん、おはようございます。
そうです。今日行く予定だったとこです♪
ライズさんの分まで楽しんできましたよ。

ライズさん、復帰されたら、
8月か9月に是非ご一緒しましょうネ!

投稿: | 2006/06/24 10:24

洋さん、すごいです、びっくりしました。
ジャムパンとオニギリ(笑)。
いや、いや、ハッチの動画のことでした。
まさに桃源郷ですね。 
洋さん独特の臨場感あふれながらもほのぼのとした文体も相まって、とても楽しく読めました。
同じ頃に近くの渓を釣っていた身としては、桃源郷にうらやましさを覚えてしまいますよ。

投稿: standy | 2006/06/24 18:46

standyさん、こんばんは!
あはは、ジャムパンとオニギリ、
自分でも食い合わせ悪いなー、って
思いつつ食べてました(笑)

ハッチの動画、見てくださって感謝です。
肉眼ではもっと凄かったんですよ。
ああいう場面に居合わせることができるかどうかは
まさに『運』なんでしょうね^^

投稿: | 2006/06/24 22:51

洋さん、こんにちは~

まさに桃源郷ですね^^
ワタシまでも引きずり込まれましたです!
お昼寝から目を覚ましても夢でなくホント最高な一日でしたね!
さぞ19号線の雑踏に戻る時は寂しかったでしょうね!!

投稿: attuu | 2006/06/25 13:34

こんばんは♪
洋さん、いい釣りしましたね~。
それに、9寸イワナのショット、すごくいい写真です。私もそいつを釣りたくなりました(笑)

投稿: narukawa119 | 2006/06/25 18:42

attuuさん、こんばんは!
いやいや、ホント釣りに没頭したいい一日でした。
僕の中では、昼寝もランチも楽しい釣行の一部
ですから(笑)
でも、できれば19号線に戻る前に、あと3時間くらい
イブニングが続いて欲しかったなぁ…^^;

投稿: | 2006/06/25 19:25

narukawaさん、有り難うございます!
水面スレスレでカメラを構えて撮ってみたんですが、
目玉がギョロっとコッチを向いてくれました…
って僕を睨んでますね、完全に(笑)

投稿: | 2006/06/25 19:50

こんばんわ!!良い釣りされたようですね。
9寸イワナ、この精悍な顔つきは年齢的にはきっと良いお歳でしょうから、そこまで生き延びた狡猾なサカナを釣るというのは立派ですよ(^^)

今週はご一緒できませんが、ぜひ皆さんで楽しんできてくださいね!!またレポート楽しみにしてます。

投稿: Rolly | 2006/06/26 23:52

Rollyさん、有り難うございます♪
やっぱりこういう顔つきのサカナを釣ると
嬉しいですよね。
今週末も、そういうサカナと逢えればいいなぁ…。
ってことで、まずは雨乞いですね(笑)

今週末はご一緒できずに残念ですが、
別の機会にまたヨロシクお願いしますね^^

投稿: | 2006/06/27 01:07

洋さん、こんばんは。
CFO、早くもいい味が出てきてますね!それだけ綺麗な
魚たちと出会っていれば当然かも(^^)。
リールって、キズが付くほど愛着が沸くから不思議ですね。

投稿: BILL | 2006/06/27 23:58

洋さん、こんばんわ!!
今度ご一緒した時に
ぜひ、教えてもらいたい事があるんですけど・・・。
一日の最後を締めくくるための、サカナの釣り方なんですが(笑)
忙しそうですが、そんな中で
こういったドラマチックな釣りができるなんて
洋さんはもうエキスパートじゃないっすか!
ラストの大物、今度譲ってください(笑)

投稿: terry | 2006/06/28 20:01

BILLさん、こんばんは!
CFO早くもアチコチに傷がついちゃってます。
もっと慎重に扱わないといけませんね^^ヾ

今週末ヨロシクです♪

投稿: | 2006/06/29 00:17

terryさん、毎度です!
今年は、ちょっとドラマチックな展開が多いんですよね~。
単に運がいいだけなんですが^^
でも本音を言えば、早々に大物をキャッチして、
余裕で蕎麦食って昼寝して、温泉でくつろぐ…
のが理想なんです(笑)

投稿: | 2006/06/29 00:24

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